Hatena Blog版・筑西歳時記~ここは茨城、筑西(旧下館)市

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板谷波山記念館 所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」①

こんにちは、みなさんお元気ですか?

少し古い話で恐縮ですが、ここ茨城県筑西市にある板谷波山記念館で、今年(令和5年)3月まで開催されていた所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」に行ってきたので、ご報告しておきます↓

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こちらが、記念館入り口↓

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以下、全ての解説文は板谷波山記念館によるものです。

ごあいさつ

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陶芸家・板谷波山(本名「嘉七 かしち」)は、1872(明治5)年に、下館藩の御用商人であった板谷家の三男六女の末子として誕生しました。幼い頃からやきものに興味を抱き、東京美術学校の彫刻科を卒業後、教員として赴任した石川県工業学校で本格的な陶芸の研究に勤しみます。その後、東京・田端に磁器窯を備えた工房を構え、幾多の試練を乗り越え、「葆光彩磁 ほこうさいじ」や「彩磁」など独自の磁器スタイルを確立し、個人作家(陶芸家)のパイオニアとしての地位を確立しました。
1953(昭和28)年に陶芸家として初の文化勲章を受章、1954(昭和29)年には日本画横山大観とともに茨城県名誉県民の第一号となります。
さらに「葆光彩磁珍果文花瓶 ほこうさいじちんかもんかびん」(泉屋博古館東京 せんおくはくこかんとうきょう 蔵)・「彩磁禽果文花瓶 さいじきんかもんかびん」(敦井美術館 つるいびじゅつかん 蔵)は国の重要文化財に指定されており、1963(昭和38)年10月10日、91歳の生涯を閉じるまで精力的に活動を続けました。
板谷波山記念館はこの偉大な波山の功績を後世に伝えるため、1980(昭和55)年に開館し、敷地内には、江戸時代中期に建てられた波山の生家、さらには東京・田端から移築した窯と工房を公開しております。板谷波山が生涯こよなく愛した故郷・下館の地で、作品をはじめ、所縁の資料や建物をどうぞごゆっくりご覧ください。板谷波山記念館

展示棟の内部です↓

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夫婦窯(めおとがま)・波山とまる

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今回の展覧会は、波山とまる夫人の夫婦窯の物語をお楽しみいただきます。ふたりは1895(明治28)年に結婚、波山は日本の陶芸界では初の個人作家として歩み始めますが、まるは夫を支え、苦楽をともにしながら5人の子どもを育てていきました。陶芸家として駆け出しの波山の作品は売れず、お米すら買えないほどの困窮に見舞われます。職人に窯を築く依頼もできず、素人同然の夫婦が協力して、僅かなお金で煉瓦を買い足し、自らの手で形を整えていきました。二人の血と汗と涙の1年3ヶ月で出来上がったのが、「三方焚口倒焰式丸窯 さんぽうたきぐちとうえんしきまるがま」です(作業棟にて展示中)。
その後、二人の努力は実を結び、大正時代中期頃には、波山は陶芸界の第一人者と目されるようになり、皇室の方々に制作をご覧いただく御前制作(ごぜんせいさく)では、波山は同志であるまるを伴い出席します。夫婦共同での御前制作は当時としては異例で、世間では夫婦窯(めおとがま)として二人を褒め称えました。

三方焚口倒焰式丸窯
田端窯採取 明治37年~38年頃↓

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当時レンガ工場があった荒川区は尾久で買い付け、夫婦自らの手で築窯した。
東京大空襲で工房のほとんどが消失してしまうものの、窯だけは難を逃れ、昭和25年に再建。今日に至る。〝陶芸家夫婦〟第一歩はこの窯から始まった。

展覧会メモ①
板谷まる(旧姓・鈴木まる)1870~1958

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福島県河沼郡坂下町(現・会津坂下町)の呉服商 鈴木作平の三女として生まれる。
17歳で上京し、共立女子職業学校(現・共立女子大学)に進学。刺繍・裁縫の他、日本画家・跡見玉枝に師事し、日本画を習得。自らを玉蘭の(ママ)号した。このとき慈善福祉活動家 瓜生岩子(うりゅういわこ)に出会ったことで、卒業後は地元福島の女子教育に尽力。会津女子職業学校(現・県立葵高校)を設立するに至る。

マジョリカ写蕪文皿
[銘 玉蘭](板谷波山・まる)
明治時代末期↓

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夫婦合作のマジョリカ写は、波山が嘱託勤務した東京高等工業学校で得た技術をもとに制作した。

本作はまるも絵付けに携わったと推測され、底面にはまるの号「玉蘭」の刻印がある。

展覧会メモ②
日本のナイチンゲール 瓜生岩子(うりゅういわこ)1829~1897

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福島県小田付村(現・喜多方市)の油商・若狭屋の長女として誕生。戊辰戦争では負傷兵看護に奔走し、その後は貧しい子どもたちの養育、教育、生活困窮者のための支援活動などを行ったことで女性初の藍綬褒章を受章する。
まるは岩子の内弟子であり、波山夫婦の結婚の際には媒酌人をつとめた。窯焚きの前日には浅草寺に祀られている岩子像に祈願を欠かさなかったという。
また、岩子三回忌のときに波山の師・高村光雲に「瓜生岩子像」の制作を依頼するなど、夫婦にとって師と仰ぐ人物である。

彩磁花卉文香炉
1945(昭和20)年代↓

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青磁袴腰香炉
昭和10~20年代↓

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青磁袴腰香炉 陶片
田端窯採取↓

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辰砂釉延寿文花瓶
1940(昭和15)年頃↓

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展覧会メモ③

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「・・・奥様は、先生がみそめて結婚されたのだが、そのみそめ方がいかにも先生らしかった。ある日、本郷の切り通し坂を歩いていると、袴をつけた女学生が日がさをたたんで荷車の後押しをするのを見かけた。昔は坂道で車押しをやる〝立ちんぼ〟という商売があったが、この娘さんはやむにやまれぬ親切心でしたことは言うまでもない。ああいう人なら、意志が強いに決まっているから、貧乏覚悟の自分のところにも来てくれるだろう。先生はそう思って、その足で親元のところにもらいに行ったということである。」
(浜田庄司私の履歴書」『日本経済新聞社』一九七四年五月二日)

淡黄磁仙桃文花瓶
1935(昭和10)年代↓

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結晶釉花瓶
1935(昭和10)年頃↓

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「美術家の歳末」板谷波山

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(前略)窯を作って第二回の作品をいれ、これが出来上ればともかく餓死線上から離れることが出来ると考えたーその窯の焼き上りが全生命の標的であった。
不幸にして火を落して五分とたたぬ中に地震に見舞われた。釉薬の密着する窯師には大切なクライマックスの時である。釉薬がくっつきあって形をなしていない。地震で作品が倒れたり、触れたりしたのだ。指の腹ほどの傷が八十ほどの作品に全部ついているのだ。
窯の前で茫然自失した。家内は職業学校で陶器の上絵を学んでいた。私は上絵は知らなかった。その創(きず)の上に上絵を描いて胡麻化して売ってはと相談を持ちかけた。
それも結構だが私は名が惜しい。それが後日の私の苦痛になるから、止してくれと頼んだ。
が、家内は強く固執して動かなかった。私はその時米屋に四十円の負債をもって、窯がうまくいったら支払う約束をして一日一日の凌ぎをつけていたのだ。翌日の米がないーというのである。二人は立場を異にして喧嘩している。果てしがなかった。
私は一策を案じた。当時陶工が一人手伝っていたのだが、彼もこの結果に失望していたので、酒を買って慰めてやれといった。家内はお金がないといった。ではというので、近所の煎餅屋から二十銭借りて酒を買はしにやった後で、私は私の傷付いた制作全部を叩き割って工場に菰(こも)をかぶせておいた。
酒を買って帰って来た家内は、それを見て泣きながらも諦めなければならなかった。(後略)
「美術新報」第六巻第十二号(昭和六年十二月)

葆光白磁唐草文花瓶
大正時代後期~昭和時代前期↓

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「葆光釉(ほこうゆう)」は波山が開発した釉薬で、薄絹を被せたような印象をもたせるのが特徴である。浅く彫ることで、「葆光釉」をかけた際の釉溜まりを防ぐため、単色釉にみられる彫りの深さはない。器面には古くから吉祥文様として扱われる「唐草文」が施される。


というわけで、長くなったので残りは後半、板谷波山記念館 所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」②へ続きます。


板谷波山記念館所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」

会期 令和4年11月1日(火)~令和5年3月19日(日) 【前期展示11月1日(火)~1月19日(木)、後期展示1月21日(土)~3月19(日)】

*月曜休館、12月28日~1月4日まで休館、1月20日休館

時間 午前10時~午後6時(最終入場は5時30分)

料金 一般210円

*高校生以下無料

障がい者手帳等をお持ちの方と同伴者1名まで無料

問合せ 板谷波山記念館TEL0296-25-3830

 

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