Hatena Blog版・筑西歳時記~ここは茨城、筑西(旧下館)市

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板谷波山記念館 所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」②

こんにちは、みなさんお元気ですか?

少し古い話で恐縮ですが・・・
ここ茨城県筑西市にある板谷波山記念館で、今年(令和5年)3月まで開催されていた所蔵品展の紹介記事「夫婦窯 波山さんとまるさん①」からの続きです。

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波山先生の妻・まるさんは福島県河沼郡坂下町(現・会津坂下町)の出身。東京の共立女子職業学校(現・共立女子大学)に学び、一方で同郷の社会事業家・瓜生岩子(うりゅういわこ)の薫陶を受けます。まるさんは天真爛漫な性格で、常に波山先生を助け、苦労の末2人で田端に築いた窯は「夫婦窯」と呼ばれ、現在は板谷波山記念館に移設・公開されています。
また、まるさんは玉蘭(ぎょくらん)の号で花鳥画などを描き、疎開中下館(現・筑西市)の女性たちに、刺繍や料理などの指導もしていました。

以下、解説文は板谷波山記念館によるものです。

前途洋々の乙女たちへ

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女子教育推進に尽力した経験を持つまるは「自立した女性」を生み出すため、自身が女学生時代的に身に付けた技術で、少女たちに刺繍教室を開きました。夫・波山も帯の意匠や文様に関心があったため、帯の下絵から配色まで関わっています。
教室に通っていた生徒宅には現在でも帯が大切に残され、下館で過ごした波山夫婦の足跡を残しています。

帯下絵(百合蝶図)
昭和20~30年代 個人蔵↓

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波山が考案した帯図案と、まるの刺繍教室に通っていた生徒による刺繍帯である。可憐な香を放つ百合の前に、蝶が飛翔するなんとも優雅なデザインとなっている。
帯下絵と作品がどちらも現存しているのは極めて貴重。本展初公開。

刺繍帯(教室生徒作)
昭和20~30年代 個人蔵↓

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田端窯採取陶片(青磁香炉 昭和10~20年代、文琳茶入 昭和時代前期、天目茶碗 昭和時代前期)↓

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まるコレクション

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まるは収集家でもあり、大正~昭和期にかけて「簪(かんざし)・笄(こうがい)・櫛(くし)」を大量にコレクションしています。1920(大正9)年に私立日本女子美髪学校で結髪科や美顔術、化粧法の講習を受講し免許を取得しました。現在では当館と、母校・共立女子大学、東京都北区立滝野川第一小学校、文化服装学院服飾資料館に寄贈されています。
「スクラップブック」には当時の新聞記事や全国の神社仏閣の御朱印がまとめられ、その内容はいずれもまるの興味関心を示し、マメな性格だと想像させられます。
またスクラップ作業には愛孫と一緒におこなったという愛おしいエピソードも残されています。

簪・笄(板谷まる私蔵)
江戸時代後期↓

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まるがコレクションした簪(かんざし)・笄(こうがい)・櫛は共立女子大学が所蔵するだけでも200点にも及ぶ数をほこり、これらの制作時期について変わり簪の多さから、江戸時代後期のものとされる。
実用性だけでなく小さな世界に込められた芸術性を、まるはこれらのコレクションから見いだしていたのではないだろうか。

スクラップブック(板谷まる私蔵)
御朱印・新聞記事・名所絵葉書・ブロマイド↓

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スクラップされている内容は「御朱印」「新聞記事」「名所絵葉書」「ブロマイド」と分けられ、全34冊にも及ぶ。大正6年から24年間続けられた御朱印には国内だけでなく、中国は青島・北京など行動範囲は広い。
装丁に使われている生地は自身で仕立てた、唯一無二のスクラップブックである。本展初公開。

家族と芸術を愛するまる

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共立女子職業学校(現・共立女子大学)で刺繍や裁縫を習うほか、日本画家・跡見玉枝に師事し日本画を習得すると自らを「玉蘭(ぎょくらん)」と号すなど、芸術を深く愛しました。
1916(大正5)年、単独で行った御前制作では「櫻形菓子器(さくらがたかしき)」を制作します。また、夫を支えるばかりでなく、自分の進むべき目標を常に心に抱き歩んだ女性でした。
昭和30年頃には下館会館で自作の刺繍や絵画の個展を開き、創作活動も積極的に行うなど、何事にも熱心で、真っ直ぐな性格のまる。天真爛漫なまるのまわりは笑いが絶えず、下館でも大変な人気者ぶりでした。

梅花小禽図刺繍額(板谷まる)
1892(明治25)年↓

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まるは共立女子職業学校(現・共立女子大学)の第一期生で、本作は記念すべき卒業制作である。精緻な刺繍技術で花鳥図を見事に完成させ、昭和30年頃に下館会館で行われた個展にも出品するほど納得の出来だったようだ。

椿図(板谷まる)
1951(昭和26)年↓

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落款には「玉蘭女八十一筆」と記され、この年は1951(昭和26)年、夫・波山が下館名誉町民(ブログ管理者注:当時の下館町報の記述に従えば「下館町名誉市民」か)に推挙された記念すべき年でもある。
これまでの玉蘭印(朱文円印)から、本作では新たな印が使用されており、まるの制作活動の意欲を感じる。

能楽を嗜む夫婦

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波山夫婦は、金沢時代に宝生流能楽に親しみ、主にまるはシテ方(あるいはワキ方)、波山は謡(うたい)を嗜みました。
戦後間もない1947(昭和22)年、下館で疎開していた二人は、東京から宝生流宗家 宝生重英(ほうしょうしげふさ)を迎え第1回「観音会(ブログ管理者注:観能会か)」を下館高等女学校(現・下館第二高等学校)で開催します。第3回まで開催されるほどの好評だったため、能楽界で名人として著名な大坪十喜雄(おおつぼときお)を招き、地元住民らと稽古をつけるなど、文化の種を蒔きました。
その後、波山の喜寿祝賀会や、まるの傘寿祝賀会の折にも下館で観音会(注:前掲)が開催されるようになり、晩年まで波山夫妻は、郷里・下館の人々との深い交わりを何よりも楽しみにしていたのでした。

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謡曲本・箱・書見台

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能の謡(うたい)は波山にとって最大の趣味であった。
この愛用の謡曲本のカバーは自ら柿渋で彩色をし、箱と書見台もお手製である。
こだわりをもつ姿勢は制作だけでなく、趣味にも表れ波山の性格を伺わせる。


以上が展示室の展示内容(一部省略)です。
なお、展示室にはモニターが設置されていて、昨年(令和4年)に筑西ケーブルテレビで放送された「生誕150年記念特別番組 板谷波山―地元を愛し、地元に愛された陶芸家」が流れていました。せっかくなので、そのごく一部(たまたま怪獣で写真を撮った場面)を、ご紹介させていただきます。

まずは、波山研究の第一人者・学習院大学の荒川正明教授へのインタビュー↓

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波山記念館学芸員の橋本空樹(うつき)さん↓

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昨年(令和4年)開催された展覧会「生誕150年記念 板谷波山の陶芸~麗しき作品と生涯~」にあわせ、記念プレートを付けて運行した真岡鐵道のSLもおか号や↓ 

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市民グループ「波山プロジェクト」が制作したマンガ「板谷波山 ふるさとを愛した陶芸家」なども紹介されていました↓

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波山プロジェクト代表の水柿貴之さんも登場↓

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展示室を鑑賞した後は、作業棟へ。ここには、田端にあった波山先生邸にあった工房(作業場)が移築・復元されていますが、こちらの展示は前回ご紹介時から大きな変更は無かったようです。

波山先生の作業机(写真奥)と、主に轆轤師・現田市松さんが使用した轆轤(写真中央)↓

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夫婦窯(三方焚口倒焰式丸窯)↓

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窯の内側は、こうなっています↓

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そして、窯の底↓

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以下は、記念館の解説ではなく、わたくし臣(しん)の思い込みによる文章です↓

焼き物の窯は「昇炎式」と「倒炎式」に大別されます。炎が下から上昇して煙突から出ていくのが「昇炎式」、対して煙突が無いため天井に当たって下に戻り、床下の煙道を通って出ていくのが「倒炎式」です。
という事は、復元された夫婦窯の底にある穴は、炎と煙を煙突へと導く煙道への穴でしょう。また天井にも穴が開いていますが、こちらは本来は塞がっていたのかもしれません。


というわけで、板谷波山記念館 所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」のご紹介でした。実は美術と才能もあり、女性のみ自立にための学校作りにも寄与してきたまるさん。当時としては進んだ考えの持ち主だった事がわかります。


板谷波山記念館 所蔵品展「夫婦窯 波山さんとまるさん」

会期 令和4年11月1日(火)~令和5年3月19日(日) 【前期展示11月1日(火)~1月19日(木)、後期展示1月21日(土)~3月19(日)】

*月曜休館、12月28日~1月4日まで休館、1月20日休館

時間 午前10時~午後6時(最終入場は5時30分)

料金 一般210円

*高校生以下無料

障がい者手帳等をお持ちの方と同伴者1名まで無料

問合せ 板谷波山記念館TEL0296-25-3830

 

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