Hatena Blog版・筑西歳時記~ここは茨城、筑西(旧下館)市

筑西市を紹介するブログ「筑西歳時記」のHatena Blog版です

板谷波山生誕150年・検索ファイルVol.8ネズミと犬と兎(広報筑西People令和3年12月1日号)

こんにちは、みなさんお元気ですか?
さて、ここ茨城県筑西市は、陶芸家・板谷波山先生(文化勲章受章者、茨城県名誉県民、筑西市名誉市民)の出身地です。そして来年令和4年は、その波山先生の生誕150年という節目の年。これを記念して、市の広報紙Peopleが波山先生の記事を連載しています。今回はVol.7に続いて8をご紹介します。

広報筑西People令和3年12月1日号掲載

シリーズ 板谷波山 生誕150年
一木努(いちきつとむ)の
波山検索ファイル Vol.8ネズミと犬と兎

 f:id:UncleAlbert:20211216202218j:plain

もうすぐクリスマス。子どもたちへのプレゼントで悩まれているご家庭もあるかもしれません。

波山は子どもたち、というよりお孫さんたちの世代と、どんなふうに付き合っていたのでしょうか。

おじいさんの着物の懐から、いきなりネズミが顔を出したのですから孫たちはビックリ。でもそれは、ハンカチのネズミでした。

波山は、こんなお茶目なパフォーマンスで子どもたちを楽しませるのがお得意でした。そのネズミを、お孫さんの村田(むらた)あき子さんに再現していただいたのが下の写真です。

f:id:UncleAlbert:20211216202451p:plain

 風呂場でも時折、面白い仕掛けが企てられていたようです。飴玉が隠されていたり、扉を開けると波山がお面を付けて湯ぶねに浸かっていたり、ある時は目鼻を刳(く)り貫いた西瓜(すいか)をかぶって現れたので、泣き叫んでしまったこともあったりと、村田さんは随想に書かれています。器用なうえに何事も本格的なので、子どもの心に深く刻み込まれたのでしょう。

波山の特技は家庭だけではなく、子どものいるさまざまな場面で発揮されていました。チリ紙で落下傘を作ってもらったという親戚の子もいれば、床屋で居合わせた子どもに折り紙を披露していたという目撃証言もあります。

また、下館に疎開中の波山宅に連れられて行ったら、波山が目の前で「こより」を縒(よ)り始めたかと思うと、あれよあれよという間に子犬の出来上がり。手渡され子はその「波山作品」を70年近く大切にしています (下写真)。

f:id:UncleAlbert:20211216202613p:plain

泣く子も黙る名人芸の思い出とともに、どこにも売っていない、かけがえのない贈り物として残されているのです。

こんなエピソードもあります。波山邸の隣に住む子が、おもちゃ代わりに、彫刻家から石膏でできた兎(うさぎ)をもらいました。波山はそのままでは壊れてしまうからと、丁寧(ていねい)に土で型を取り、焼き物にしてあげたのです。

実は、隣の子は後に「板谷波山傳」を著(あらわ)す吉澤忠(よしざわちゅう)、彫刻家はやがて波山の胸像を作ることになる吉田三郎(よしださぶろう)という豪華メンバー。吉田氏はあの兎となら自分の作品のどれとでも交換するからと吉澤家に頼み込んだそうですが、惜しいことに関東大震災で失われてしまい、写真も残っていません。代わりに子ども大好きの笑顔の波山の写真を一枚紹介します(下写真)。

f:id:UncleAlbert:20211216202904p:plain

波山に抱かれている少年は、本紙10月1日号で荒川先生が紹介されたあの事件、「波山作の皿を宿直の先生たちが宴会にに使ったことを聞き烈火のごとく怒り狂い、急いで菊皿を保護し大型金庫を学校へ寄付」してくれた老田繁蔵(おいたしげぞう)氏のお孫さん。この子さえもう60代後半になりました。波山とのツーショットはうらやましい限り。1枚の写真でさえ一生のプレゼントとなるのですね。

年が明けると、板谷波山生誕150年の記念の年。穏やかな日々の中、賑々(にぎにぎ)しく大企画展を開催したいものです。

みなさんにとっても、よい年となりますように。

文 下館・時の会代表 一木努さん

 

十二月師走

文・学習院大学教授 荒川正明(あらかわまさあき)さん

彩磁椿文茶碗(さいじつばきもんちゃわん)

板谷波山作 昭和38年(1963)

高さ7.4㎝ 胴14.5㎝

筑西市蔵(神林コレクション)

f:id:UncleAlbert:20211216203059p:plain

去る11月9日、波山の作品をこよなく愛した小説家、瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)さんが99歳で亡くなられました。来年春の生誕150年の波山展に寂聴さんをお招きしたいと、波山記念館の板谷駿一(いたやしゅんいち)理事長が連絡を取っていましたが、それも叶わなくなってしまいました。

私は美術館学芸員時代に、何度か波山展にご案内しました。波山の作品を前にすると、キリッとした真剣な眼差しになられ、食い入るように眺められていた寂聴さん。ある時は、おでこをガラスに勢いよくゴツンとぶつけられたことも。そして「波山の作品はなんて色気があるのでしょう。その上に品格も感じられる。波山は紛れもない天才ね」と。

作品を生んだ人物は消えても、その人の残した作品たちは時代を超え、ますます光り輝いていく。その芸術の素晴らしさを、寂聴さんは卓越した文章力で端的に示してくださいました。

この「彩磁椿文茶碗」は波山が91歳、生涯最後の作です。ほんのりとした愛らしい茶碗には、これから咲こうとする小さな蕾(つぼみ)も加えられています。最晩年まで瑞々(みずみず)しい感性を決して失うことのなかった波山の芸術は、これからも輝き、私たちの行く手を照らしてくれることでしょう。

【問】しもだて美術館 電話0296-23-1601

 

波山ニュース

板谷波山生誕150年記念事業

ロゴマーク決定

f:id:UncleAlbert:20211216203323p:plain

11月10日、令和4年に開催される板谷波山生誕150年記念事業の実行委員会(須藤茂実行委員長)が開催されました。

委員会では、しもだて美術館板谷波山記念館・廣澤美術館の3館で同時開催される記念展覧会の内容や、イベントなどについての協議が行われました。

また、記念事業のロゴマークが正式に決定されました。

ロゴマークのデザインは、筑波山をイメージした波山の落款が用いられています。

【問】しもだて美術館 電話0296-23-1601

 

というわけで、広報筑西Peopleの板谷波山生誕150年記念の連載記事は、Vol.9に続きます。

 

筑西市ホームページ

板谷波山記念館公式サイト

しもだて美術館

廣澤美術館