Hatena Blog版・筑西歳時記~ここは茨城、筑西(旧下館)市

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板谷波山生誕150年・検索ファイルVol.10(最終回)鳩杖(広報筑西People令和4年3月)

こんにちは、みなさんお元気ですか?
さて、ここ茨城県筑西市は、陶芸家・板谷波山先生(文化勲章受章者、茨城県名誉県民、筑西市名誉市民)の出身地です。そして今年(令和4年)は、その波山先生の生誕150年という節目の年。これを記念して、市の広報紙Peopleが波山先生の記事を連載しています。今回はVol.9に続いて最終回、Vol.10をご紹介します。

 

広報筑西People令和4年3月1日号掲載

シリーズ 板谷波山 生誕150年
一木努(いちきつとむ)の
波山検索ファイル Vol.9(最終回)鳩杖

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板谷波山生誕150年記念展が間近に迫ってきました。
波山というと、「鳩杖」を思い浮かべる人が多いかもしれません。

「波山検索ファイル」の最終回は、その鳩杖で締めくくることにしましょう。

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波山の「鳩杖物語」は、下のおじいさんから始まりました。

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波山の義理のお兄さんで、実家の「板善(いたぜん)」を引き継ぎ4代目を襲名した板谷善吉(ぜんきち)さんです。この人がめでたく80歳を越えたので、波山はお祝いを考えます。そして古くから宮中で長寿祝いにされていたという、握り手が鳩の形をした鳩杖を作って贈ろうと決めました。

さらに「そうだ。故郷のお年寄り、みんなにあげよう!」と思いつきます。
急ぎ長寿者の人数を役場に問い合わせ制作に取り掛かります。こうして昭和8年3月19日、この町の80歳以上の高齢者37人全員に鳩杖が贈呈されることになったのです。

ここでの町というのは合併前の旧下館町。鳩杖で祝福される幸運に恵まれたのは、現在の住所表記でいうと甲乙丙の区域に住むお年寄りたちで、最高齢が90歳、平均は82・5歳でした。因みに鳩杖のきっかけとなった善吉さんは、その翌々月に亡くなっています。

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上の写真は第1回目の集合写真ですが、これは後日、お年寄りが鳩杖を持ち寄って撮影したもの。波山は高齢者の家を訪問して、自ら一人ひとりに鳩杖を手渡していたのです。その様子を記録に残している人がいました。

「ある日、家の前に突然立派な乗用車が横付けされた。その頃の下館には自動車は2〜3台ぐらいしかない時代で、珍しい風景なので、私が驚いて店に出てみると、役場の助役と一緒に礼装した波山先生が「ご長寿おめでとうございます」と丁寧な挨拶をなされ、その上、お祝いの品を頂いたのである。そのお祝いの品は宮中鳩杖で、それも波山先生の作なのである。驚きと光栄の至りで祖母はもちろんのこと家中大喜び・・・・・・」(「我が三代記」小山文太郎(こやまぶんたろう))

昭和10年に撮られた波山の家庭訪問の写真(下)も出てきました。

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縁側に座るおばあさんの傍らに、贈呈されたばかりの、熨斗紙(のしがみ)、水引きが付いた鳩杖の箱が写っています。

波山は60歳でこの大事業を始めてから、毎年80歳を越えたお年寄り贈り続け、戦災で東京の自宅と工房を失った時でさえ、やめることはありませんでした。戦後、握り手の「鳩」は金属から陶器に代わりますが、波山自身が80歳となる昭和26年まで19年に亘って継続され、その数は260本を超えています。戦没者への観音像と同様、誰から依頼されたわけではなく、下世話な言い方ながら自腹を切って、純粋な気持ちを形にして故郷の人々に届けてくれていたのです。

150年記念展では、所蔵されているみなさんのご厚意で、鳩杖や観音像が波山記念館に集合します。実際に手にすることができる「鳩杖体験企画」も用意しています。心のこもった故郷への贈り物の数々は、板谷波山の麗しい生き方を、静かに語り伝えてくれることでしょう。
ぜひ、お出かけください。
文 下館・時の会代表 一木努さん


三月 弥生
文・学習院大学教授 荒川正明(あらかわまさあき)さん

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彩磁草花文花瓶(さいじそうかもんかびん)
板谷波山作 大正後期(1922〜1926)頃
高さ23.4cm 胴径23.7cm
廣澤美術館蔵

板谷波山生誕150年記念展の開催が、近づいてきました。現在、展示の構成も決定され、オシャレな図録も完成に向かっています。あと少し、もう少しですので、みなさんどうぞご期待ください。
ここで、お知らせです。今回の展覧会のマスコットキャラクターが決定しました。もちろん波山作品から選出。
それは今回紹介する「彩磁草花文花瓶」。今後ポスターやチラシに使用され、本展覧会の「顔」として、展覧会の間、街のあちこちでご覧いただくことになるでしょう。
この作品、なんといっても器面を埋めるストライプ柄がカッコよく、過去の波山作品には見られない斬新さ。

波山の作陶活動においても頂点期とされる、大正時代後期の逸品で、格調の高さはさすが波山です。
しかし、この作品何かが違う。その革新性、波山の攻めの姿勢が感じられるのです。
器面の三方に大胆に窓枠を置き、シルクロードから伝えられた更紗(さらさ)文様のゴージャスな草花文が描かれ、皆をあっと言わせてやるという波山の野心作に違いありません。筑西の街に新たな風を吹かせる予感がしませんか・・・・・・。
我々はこの「彩磁草花文花瓶」を旗印にいざ出陣です。展覧会場で、みなさんとお会いできることを楽しみにしています。
【問】しもだて美術館 電話0296−23−1601

波山ニュース
令和3年5月1日号からの、一木努さんと荒川正明さんによる連載は、今3月1日号で終了となります。一年間お読みいただきましてありがとうございました。
次号では、4月16日(土)から6月19日(日)まで開催される「板谷波山生誕150年記念事業」についてお知らせします。
波山の選りすぐりの名品を一堂に集めた展覧会や、イベント会場での催しを案内する予定です。


というわけで、広報筑西Peopleの板谷波山生誕150年記念特集のブログ掲載は、今回をもって終了。150年記念事業(展覧会と関連事業)については、市ホームページなどでよくご確認ください。

 

筑西市ホームページ
板谷波山記念館公式サイト
しもだて美術館