こんにちは、みなさんお元気ですか?
さて、ここ茨城県筑西市は、陶芸家・板谷波山先生(文化勲章受章者、茨城県名誉県民、筑西市名誉市民)の出身地です。そして来年令和4年は、その波山先生の生誕150年という節目の年。これを記念して、市の広報紙Peopleが波山先生の記事を連載しています。今回はVol.5に続いて6をご紹介します。
広報筑西People令和3年10月1日号掲載
シリーズ 板谷波山 生誕150年
一木努(いちきつとむ)の
波山検索ファイル Vol.6茨城工芸会
「茨城工芸会」は、板谷波山が在京の茨城出身の工芸作家に呼び掛けて、昭和5年(1930)に結成されました。工芸美術の普及、発展そして若手作家の育成などを目指して、隔年で「茨城工芸展」を開催してきましたが、目的はそれだけではありません。
団扇と竹下駄
設立した頃の世の中は大不況のどん底、とりわけ地方の疲弊は深刻なものでした。そこで農漁村部での副業や地場産業育成のため、郷土の土産品や工芸品の開発に貢献しようという願いもあったのです。
波山も自ら磯節の文句が書かれた「磯団扇(いそうちわ)」 (下写真右)や、竹をそのまま使った「夫婦浜下駄(めおとはまげた)」(下写真左)を考案、出品しています。今で言う地域振興策や地方の活性化事業に取り組んでいたのですね。
昭和11年(1936)には水戸の梅に因んだ梅型菓子皿を製作し、これまたお手製の鶯餅(うぐいすもち)をのせて客にふるまい、さらに波山没後の昭和44年(1969)、茨城工芸会創立40年を記念して販売された浴衣地(ゆかたじ)(下写真)は波山デザインの梅模様でした。
波山独特の着想は、これからも大いに参考になりそうです。
稲荷町大火
茨城工芸展は県内の移動展もあって、下館では3回開かれています。
初回が昭和15年(1940)5月15日・16日の2日間で、会場は羽黒神社前にあった下館町役場、現在の児童遊園の場所です。
前日水戸の会場から夕刻に移動したため、展示作業は深夜まで続きました。その最中に突然響きわたる半鐘の音、我が町未曽有(みぞう)の大火災となる稲荷町大火が起きたのです。しかも火元は役場のすぐ近く。「火災現場の真上にある町役場は、一時火の粉を真っ向に浴び危険に瀕(ひん)したので重要書類を全部取り纏(まと)め小学校に運搬・・・」(下館大火災誌)というほどでした。(下「火災後の航空写真」参照)
町役場は被災を免れたものの、猛火は108戸を焼き尽くして、漸(ようや)く未明に鎮火しました。展覧会場内の状況や、夜が明けてからの記録は残っていませんが、ただひとつ、その晩の波山のつぶやきを覚えている人がいました。田町の住まい(現在の波山記念館)への帰り道、羽黒神社裏手の階段で波山が、「ほーっ、まだ、やっているんだ」と言うのを耳にしたのは、親戚の板谷はつさん。
見ればあちこちの物干し台に、赤い腰巻が掛けられています。それは、古来各地で行われていた延焼防止のおまじない。波山は幼いころ見た風習が続いていることに驚いたのでしょう。こんな一言に、ふるさとや歴史に寄せる波山の想いが感じられます。大惨事を前にして、当時の、そしてさらに遠い明治の情景も伝えてくれる貴重な証言を残してくれたのでした。
文 下館・時の会代表一木努さん
十月神無月
菊
文・学習院大学教授 荒川正明(あらかわまさあき)さん
彩磁菊花図額皿(さいじきっかずがくざら)板谷波山作
明治44年(1911年)
高さ5.0㎝ 胴径30.0㎝
しもだて美術館蔵
ついに筑西市の宝物、菊皿の登場です。なぜ宝物なのか。それは、110年前の明治44年(1911) の第2回全国窯業品共進会会場。明治天皇の皇后、後の昭憲皇太后(しょうけんこうたいごう)が会場に御行啓、直に菊皿を制作する波山夫妻の様子をご覧になったのです。
夫婦での御前制作、当時は考えられないことでした。当時天皇陛下や皇后様は、まさに神のような存在で、現代の我々には想像もつかない名誉。しかもその場に妻を伴った男気、そのフェミニストぶり、さすが波山。
中国での菊の花は、縁起がよく、無病息災や子孫繁栄、邪気を払う力を持つ霊草とされ、天皇家の御家紋にも選ばれました。みなさん、菊は本来、お葬式用の花ではなく、いのちの尊さを寿(ことほ)ぐ花なのです。
さて、菊皿の後日談を少々。大正13年(1924)、波山はこの菊皿をなんと、母校の下館尋常高等小学校へ寄贈しました。後輩たちを励ます気持ちからでしょうね。
ところが、昭和に入り、戦後、この菊皿の大切さを忘れた職員たちが、宿直室での夜の宴会用の皿に転用していたとか。それを知った地元の篤志家(とくしか)・老田繁蔵(おいたしげぞう)さんは、烈火のごとく怒り狂い、急いで菊皿を保護し、大型金庫を学校へ寄付。老田さんの思いは通じ、菊皿は無事後世に伝わりました。
来年の展覧会に出品される予定です。
【問】しもだて美術館 電話0296-23−1601
波山ニュース
板谷波山記念館 令和3年度秋季特別展
陶片-創作のかたわらに
波山はつねに厳しい姿勢で制作に臨み、窯出しの後、気に入らなかった作品はすべて割ってしまったと言われています。窯の周辺には、完成には至らなかったそれらが陶片となって、長年蓄積されていました。陶片は、波山の作陶姿勢を物語るものであり、当時の制作過程や、繊細な技を垣間見ることができる貴重な資料群といえます。
今回の秋季特別展では、田端の窯で発掘された初公開を含む陶片を中心に展示します。人生を懸けて陶芸の道を極め、至高の存在として語られる波山の舞台裏に隠されたひたむきな努力を陶片から感じ取って頂けることでしょう。
(下写真「葆光彩磁瑞花鳳凰文様花瓶(ほこうさいじずいかほうおうもんようかびん)」)
会期 10月9日(土)~12月5日(日)
月曜休館 10月7日(木)・8日(金)は準備のため臨時休館
入場料 一般 210円 団体(10人以上)160円 高校生以下無料
【問】 板谷波山記念館 電話0296-25−3830
というわけで、広報筑西Peopleの板谷波山生誕150年記念の連載記事は、Vol.7に続きます。